場面緘黙症の原因を脳のしくみから解説 ──不安・扁桃体・行動の固定化を3つの視点で徹底解説
【子育てあるある】こんな時どうする?#場面緘黙児話せるようになりました#話せなくて困っている #HSPお知らせかんもくお茶会ピックアップ回復の順番未分類
目次
場面緘黙症の原因とは?

不安と脳のしくみからわかりやすく解説
場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)は、これまで「話そうと思えば話せるのに、わざと話さない状態」と誤解されることが多くありました。
しかし現在では、
場面緘黙症は本人の意志や性格の問題ではなく、強い不安に対する脳の反応として起こる状態と理解されるようになってきています。
不安が強い子どもの脳で起きていること

場面緘黙症の背景には、
扁桃体(へんとうたい)という脳の部位の過敏な反応が関係していると考えられています。
扁桃体は「危険か安全か」を瞬時に判断する役割を担っています。
不安傾向の高い子どもでは、本来は安全な場面でも、この扁桃体が「危険だ」と誤って反応してしまうことがあります。
すると、
-
体が固まる
-
声が出なくなる
-
逃げる・黙るといった反応が自動的に起こる
といった状態が生じます。
これは防衛反応であり、「わざと話さない」「甘えている」わけではありません。
不安が続くと、脳は切り替えられなくなる
さらに重要なのは、
この不安反応が繰り返し続くことです。
不安が強い状態が続くと、脳は「危険モード」に入り、注意がネガティブな情報に固定されやすくなります。
その結果、
-
別の考え方が浮かばない
-
他の行動の選択肢が見えなくなる
-
反応が一つに固まる
という状態が起こります。
これは
「脳の柔軟性(認知的柔軟性)の低下」と呼ばれています。
場面緘黙症の子どもが
「話さない/話せない」状態に陥ってしまうのは、このプロセスの自然な結果と考えられます。
親御さんの不安も、実は大きく影響します

この仕組みは、子どもだけのものではありません。
親御さん自身も、
-
将来への不安
-
「このままで大丈夫だろうか」という心配
を抱える中で、
気づかないうちに見方や関わり方が硬くなってしまうことがあります。
だからこそ、
メンタルケア心安が行う【場面緘黙症の支援】では、子どもと同時に親の安心を育てる視点
がとても大切にしています。
場面緘黙症は、正しい理解で変わっていきます

場面緘黙症は「治らない特性」ではありません。
まずは、親御さんが
わが子のかんもく状態(不安と脳のしくみ)を正しく理解することから始めます。
次に、わが子にとって安心できる体験を重ねていくことで、子どもの反応は少しずつ変化していきます。
「なぜ話せないのか」がわかることは、親子にとって大きな安心と改善の一歩につながります。
以下の章では、場面緘黙症の原因を、脳のしくみから詳しく解説します
不安が強いと「切り替えられなくなる脳」

──場面緘黙症と“認知的柔軟性”の深い関係
場面緘黙症の子どもたちを支援していると、私は繰り返し、ある共通点に気づかされます。
それは、
「不安が高まると、行動も思考も“固まってしまう”」ということです。
話したい気持ちはある。
やってみたい気持ちもある。
けれど、その場になると体も心も動かなくなる。
これは決して「意欲がない」「甘えている」状態ではありません。
近年の認知心理学・神経科学の研究からも、
不安が脳の働きそのものを変化させることが明らかになってきています。
不安が強いと、脳は「柔軟性」を失う

認知心理学者・神経科学者である
エレーヌ・フォックス(Elaine Fox)博士は、
著書
『SWITCH 切り替える力
──すばやく変化に気づき最適に対応するための人生戦略』(スイッチ・クラフト、栗木さつき訳)の中で、次のような重要な指摘をしています。
不安が高い状態では、
脳は危険やネガティブな情報に注意を固定しやすくなり、
状況を柔軟に捉え直すことが難しくなる
(フォックス,邦訳 pp.127–128 要旨)
フォックス博士はこれを
「認知的柔軟性(Cognitive Flexibility)」の低下と説明しています。
認知的柔軟性とは、
-
状況を多角的に見る力
-
一つの考えに固執せず、別の選択肢に切り替える力
-
環境の変化に応じて、考え方や行動を調整する力
のことです。
そして、不安が強い状態が続くと、この力が一時的に、あるいは慢性的に低下してしまうのです。
「ネガティブへのこだわり」は性格ではない
フォックス博士はさらに、不安傾向の高い人ほど、
-
ネガティブな情報に注意が向きやすい
-
いったん生じた不安な考えから抜け出しにくい
-
ポジティブな出来事があっても、気づきにくい
という特徴を示すことを、実験研究から明らかにしています(同書 第6章)。
重要なのは、
これは性格や考え方の癖ではなく、脳の情報処理の偏りだという点です。

つまり、
「切り替えられない人」なのではなく、
「切り替えにくい脳の状態にある」
ということなのです。
場面緘黙症の子どもに起きていること

この理論は、場面緘黙症の理解にそのまま当てはまります。
場面緘黙症は、不安症の一つと位置づけられており(DSM-5-TR)、特定の社会的場面で強い不安が喚起されます。
すると子どもの脳では、
-
「話さなければならない」
-
「失敗したらどうしよう」
-
「変に思われるかもしれない」
といった危険信号が過剰に活性化し、
-
注意は不安に固定され
-
他の選択肢(小さな声、ジェスチャー、視線など)が見えなくなり
-
行動が一つのパターンに固着する
結果として
「話さない/話せない」という行動が繰り返されるのです。
これは意志の問題ではなく、不安によって認知的柔軟性が低下した結果と理解する方が、科学的にも臨床的にも妥当です。
実は、親御さんの脳にも同じことが起きている

そして、この現象は子どもだけに起こるものではありません。
わが子の場面緘黙症に向き合う親御さんもまた、
-
「このままで大丈夫だろうか」
-
「将来が心配でたまらない」
-
「またうまくいかなかったらどうしよう」
という強い不安の中に置かれています。
不安が高まると、親御さん自身の脳もまた、
-
ネガティブな未来予測に注意が固定され
-
小さな変化や成長が見えにくくなり
-
関わり方が無意識に硬くなる
という状態に陥りやすくなります。
これは「親の関わりが悪い」のではなく、
不安というストレス下で、誰にでも起こりうる脳の反応なのです。
支援の本質は「切り替える力を育てること」

フォックス博士は、
認知的柔軟性は生まれつき固定された能力ではなく、環境や経験によって育て直すことができると述べています(同書)。
これは、私が12年以上、
場面緘黙症の親子と関わる中で実感してきたこととも一致します。
場面緘黙症の支援で本当に大切なのは、
-
不安を無理に消そうとすることではなく
-
安全だと感じられる体験を積み重ね
-
親子双方の「見方」を少しずつ柔らかくしていくことです。
そうすることで、
脳は再び“切り替えられる状態”を取り戻していきます。
不安があっても、回復は可能です
不安が強いこと自体は、悪いことではありません。
問題なのは、不安の中で孤立し、
切り替えられない状態が続いてしまうことです。
正しい理解と、適切な支援があれば、
脳の柔軟性は必ず回復します。
場面緘黙症は、
「治らない特性」ではなく、
不安と脳の働きを理解することで改善していく状態です。
私はこれからも、
科学的根拠と臨床経験の両方を土台に、
親子が安心して一歩を踏み出せる支援を続けていきたいと考えています。
参考文献
-
Fox, E. (2018). Switch Craft: Harnessing the Power of Mental Agility to Transform Your Life.
(エレーヌ・フォックス著/栗木さつき訳
『SWITCH 切り替える力』スイッチ・クラフト)pp.127–128 他 -
American Psychiatric Association (2023). DSM-5-TR