バイリンガルの子は【場面緘黙症】になりやすいのか?
目次
バイリンガルの子どもと場面緘黙症の関連
中之園はるなです
最近、私のホームページをご覧になった外国人の方からご相談を受けることが増えてきました。
そこで、今回は2つの言語を持つバイリンガルの子どもと場面緘黙症についてお伝えします。
場面緘黙症(SM:Selective Mutism)は、特定の場面や状況において話すことができなくなる不安障害の一種です。単なる大人しい性格とかシャイな子と軽く考えられがちですが、実は治療が必要な対象なのです。
代表的な症状は、その子が家族と一緒にいる時には話すことができるのですが、学校や公共の場では一貫して話すことができなくなるというものです。バイリンガルの子どもにおける場面緘黙症の研究は限られていますが、いくつかの重要な関連性があると言われています。
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言語環境の複雑さ
- バイリンガルの子どもたちは、異なる言語環境でどの言語を使用するかを選択する際に、不安を感じることが多いことがジーナ・コンティーノ研究によって分かりました。この言語選択のプレッシャーが場面緘黙症の引き金になる可能性があります。
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言語能力の不均衡
- 子どもが二つの言語のうちどちらか一方に自信を持っていない場合、その言語を使用する場面で不安を感じやすくなり、結果として緘黙症状が現れることがあります。場面緘黙児は失敗することを恐れる傾向があります。そのため、自信のない言語は使わないように回避することで、ますます苦手になり話せなくなるという悪循環に陥ります。
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文化的な要因
- バイリンガルの子どもは異なる文化背景を持つ場合が多く、文化的な期待や社会的なプレッシャーが緘黙の発症に影響することも考えられます。場面緘黙の子は元々環境の変化に弱く、新たな環境に慣れるのに時間を要します。実際に、クラス替えにより担任が変わり、仲良しの友達と離れただけで症状が悪化することがあります。ましてや違う国に行けば文化的な環境も大きく変わるため、相当なストレスとなることは容易に想像できます。
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社会的な期待とプレッシャー
- 学校や友人とのコミュニケーションにおいて、バイリンガルの子どもが感じる社会的な期待やプレッシャーが、緘黙のきっかけとなることがあります。社会的な期待やプレッシャーとは、例えば、ほかの国から来た転校生としてバイリンガルの子がクラスメイトになったら、周囲から注目を浴びるでしょう。そのことが,元々緊張しやすいタイプの子であれば、さらに緊張や不安を喚起し、緘黙の発症につながると言われています。
研究の具体例
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ジーナ・コンティーノ研究
- ジーナ・コンティーノによる研究では、バイリンガルの子どもたちは単一言語の子どもよりも場面緘黙症を発症するリスクが高いとされています。これは、異なる言語環境に適応する際のストレスが原因と考えられています。
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アメリカ心理学会(APA)の研究
- アメリカ心理学会の研究によれば、バイリンガルの子どもは、特に第二言語での言語能力が未熟な場合に、場面緘黙症を発症する可能性が高くなることが示されています。
対策と支援
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一貫した言語支援
- 子どもが両方の言語で自信を持って話せるよう、一貫した言語支援が重要だとされています。学校や家庭でのサポートが不可欠です。しかし、バイリンガルであろうとなかろうと場面緘黙児の支援者は少ないのが現状です。
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カウンセリングと効果的な心理支援
- バイリンガルの子どもたちにおける場面緘黙症の理解と支援は、彼らの健全な発達にとって極めて重要です。不安を軽減し、自信を持てるようにするためのカウンセリングや心理支援を実施することをお勧めします。具体的には、行動療法、認知行動療法等が有効であるとされています。
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教師と親の協力
- 場面緘黙児は話さないだけで、学校で周囲を困らせるような問題行動がないため、見過ごされやすい存在です。まず、場面緘黙について教師も保護者も勉強会を開くなどして正しい理解をすることが大切です。効果的な支援には、家庭と学校の連携も重要です。また、実際の支援に関しては、場面緘黙に詳しい専門家の助言を仰ぐことが重要です。メンタルケア心安では、学校や保護者様主催の勉強会等に講師としてご依頼を受けることが増えてきました。
バイリンガルの子どもの緘黙発症率
バイリンガルの子どもがどれくらいの割合で場面緘黙(Selective Mutism, SM)を発症するかについての具体的な統計は、まだ十分に確立されていません。研究やデータの蓄積が限られているため、明確な数値を示すことは難しいです。しかし、いくつかの研究から得られる情報を基に、バイリンガルの子どもたちにおける場面緘黙の発症率について概観します。
場面緘黙の一般的な発症率
まず、場面緘黙症の一般的な発症率についてです。全体として、場面緘黙症は小児人口の約0.3%から1%に見られるとされています。これに対し、バイリンガルの子どもに特化したデータは限られていますが、いくつかのリスク要因が指摘されています。
バイリンガルの子どもの場面緘黙のリスク要因
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言語ストレスと不安
- バイリンガルの子どもは、異なる言語環境での適応を求められることが多く、これがストレスや不安の原因となりやすいです。言語の選択や能力の不均衡が緘黙のリスクを高める可能性があります。
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文化的・社会的要因
- 異なる文化背景を持つ子どもたちは、それぞれの文化から期待されるふるまい方的期待や社会的圧力により、特定の場面で話すことに対する不安を感じることがあります。
- 学校や社会的な場面で感じるプレッシャー
研究例
1. クマラサミ(Kumaraswami)の研究
クマラサミ(Kumaraswami, 2017)による研究では、バイリンガルの子どもたちは単一言語の子どもたちに比べて約2倍のリスクで場面緘黙症を発症する可能性があると報告されています。この研究は、バイリンガル環境での言語選択や文化的要因が大きく影響することを示しています。
まとめ
バイリンガルの子どもたちが場面緘黙症を発症する割合についての具体的なデータはまだ限られていますが、研究の傾向からは、単一言語の子どもたちに比べてリスクが高いことが示唆されています。これには、言語ストレス、不安、文化的・社会的要因が大きく関わっています。
今後、さらに詳細な研究が進むことで、より具体的な発症率やリスク要因が明らかになることが期待されます。
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ひとりの場面緘黙の男の子との出会いが、私が場面緘黙の子を支援するきっかけとなりました。彼と信頼関係を築くのは容易ではありませんでしたが、根気よく関わることで変化が生まれてきました。筆談から電話での会話が可能になり、一部の人と話せるようになりました。この記事を読まれた*ご意見・ご感想*などございましたらお気軽に、お願いいたします。
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