場面かんもく児に対してよくある「成長すれば治る」という落とし穴
場面緘黙を放置したとき、見えなくなる不安の正体

「成長すれば、そのうち話すようになりますよ」
そう言われて、
本当にこのまま待っていていいのだろうか――この記事では、
「成長すれば治る」という考えが、なぜ場面緘黙支援では落とし穴になり得るのかを、
科学的根拠と臨床経験の両面から解説します。
目次
1.「放置したら治る」は本当なのか?――結論からお伝えします

まず、最も大切な点からお伝えします。
「場面緘黙の子どもを放置した“結果として”改善した」ことを、因果関係として示した信頼性の高い科学的データは、現在のところ存在しません。
一方で、長期追跡研究からは次の事実が知られています。
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成長とともに、話せる場面が増える人が一定数いる
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しかし、その多くは
何らかの環境調整・周囲の配慮・支援が部分的に入っている -
そして重要なのは、
「話せるようになった=不安が解消された」ではないという点です
つまり研究が示しているのは、
「放置が有効だった」という事実ではなく、“経過の中で変化した人もいる”という結果論にすぎません。
2.なぜ「成長すれば治ったように見える」ケースが生まれるのか

臨床現場では、
「特別な支援は受けていないけれど、いつの間にか話せるようになった」という声をまれに耳にすることがあります。
しかし、その背景を丁寧に見ていくと、次のような要因が重なっていることがほとんどです。
● 環境が“偶然”変化している
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理解ある担任や上司に出会った
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安心できる友人・仲間ができた
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クラス替え、進学、就職などで人間関係がリセットされた
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発話を強く求められない環境に移行した
これらはすべて、立派な「環境調整」=介入要因です。
● 要求水準が下がっている
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発表・音読・会話を求められなくなった
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話さなくても成立する役割に落ち着いた
この場合、
「話せるようになった」のではなく、「話さなくても困らなくなった」だけという可能性もあります。
3.行動理論から見る「放置」のリスク

場面緘黙は、意志や性格の問題ではありません。これまでの記事で何度もご紹介して来たように、強い不安に対する“反応”として生じる行動です。
行動の視点から見ると、次のループが起きています。
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話す場面に入る↓
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強い不安・恐怖が生じる↓
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話さない(回避する)↓
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不安が一時的に下がる↓
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「話さない方が楽」という学習が起こる
これを繰り返すことで、回避行動(話さない)が強化・固定化されていきます。
放置が引き起こしやすい2つの問題
① 回避の「練習量」が増える
支援がない状態では、子どもは日々「話さずにやり過ごす」経験を積み続けます。
これは行動理論的に見ると、回避行動を繰り返し練習し、「蓄積」している状態です。
② 安全な成功体験が設計されない
話せるようになるために必要なのは、
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不安がゼロになるのを待つことではなく
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不安が少しある状態で
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失敗しない形で
-
話す小さな成功を積むこと
放置では、この段階的な行動設計が入りません。
4.表面症状が消えただけの可能性――臨床で実際に出会った若者たち

長期追跡研究では、場面緘黙そのものは目立たなくなっても、
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社会不安
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対人恐怖
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回避傾向
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自己評価の低さ
といった形で、不安が別の形に移行して残る率が高いことが示されています。
これは研究の中だけの話ではありません。私自身、支援者として活動する中で、
「放置された結果、自力で話せるようになった元・場面緘黙の若者」に実際に出会っています。
「話せるようになった。でも、自分がわからない」
これまでに私は、
特別な専門支援を受けずに、最終的には話せるようになったという、元・場面緘黙の大学生の女性にお会いした事があります。
このホームページをご覧いただいてご連絡くださり、わざわざ私を訪ねて来てくださいました。
彼女は、表面上、私と自然に会話ができます。
「本当に場面緘黙だったのだろうか?」と感じるほどでした。
しかし彼女は、こう語ってくれました。
「高校に入るとき、このままではいけないと思った」
「誰も自分を知らない高校を選んで、一生懸命、自分で頑張って話すようになりました」
友人の存在、部活動、自分をかんもく児とは知らない新しい環境。
確かに追い風となる要因はありました。
彼女たちは口をそろえて言います。
「特別な支援は受けていません。自分の努力で、なんとか話せるようになりました」
一見すると、
「成長と努力で乗り越えた成功例」に見えるかもしれません。
しかし、彼女が私のもとを訪ねてきた理由は別にありました。
「最低限の会話はできます」
「でも、自己肯定感がとても低いんです」
「話せる自分が本当なのか、話せなかった自分が本当なのか、わからなくなってしまいました」
話せるようになったけれども、自分のアイデンティティは揺らいでいたのです。
社会人になっても続く「見えない不安」

もう一人、
すでに就職している23〜24歳の男性を、オンラインで支援したことがあります。
彼は必要最低限の会話はできます。
しかし、
「いつも不安でたまらない」
「人と話すたびに、強い緊張が抜けない」
と訴えていました。
場面緘黙という症状は目立たなくなっていても、
社交不安として、不安ははっきり残っていたのです。
5.「成長すれば治る」という考えの本当の落とし穴
ここまで見てきたように、
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話せるようになること
= 不安が解消されること
ではありません。
支援が入らないまま成長すると、不安は
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社会不安
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自己否定
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回避傾向
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アイデンティティの混乱
という形で残りやすくなります。
生まれ持った
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不安を感じやすい気質
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扁桃体の過敏性
それ自体が問題なのではありません。
問題は、それとどう付き合うかを学ぶ機会がなかったことです。
だからこそ私は、「放置は危険である」と考えています。
6.子どもの力を信じる支援とは

場面かんもく児に有効な支援とは、無理に話させることではありません。しかし、だからと言って何もしないことでも、話さなくていい支援をする事でもありません
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安心できる関係性を土台に
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環境を整え
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行動を小さく分解し
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非言語でも伝えられた「意思表示できた」という感覚を積み重ねる
それによって、不安と共に前に進む力を育てること。
「様子を見る」ことはあっても、
「何もしない」こととは違います。
成長に任せるのではなく、不安が強くて自力ではコミュニケーションが取り辛いかんもく児の成長を積極的に支える。
それが、
場面緘黙支援において最も現実的で、子どもの未来につながる選択だと考えてえています。
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近年、多様化する価値観のなかで、心の問題も多様化、複雑化しています。うつ、社交不安などに加えて発達障害、ゲーム依存、コミュニケーションについての相談が増えています。精神科クリニックにも在籍し子どもから大人まで、カウンセリング延べ2,000人。クライアントの悩みに寄り添い、適切な心理療法を用いて問題解決へ向けてサポートします。